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【第48回】技能実習に代わる制度~最終報告を受けて~

長久手市の在留資格(ビザ)専門行政書士、竹内です。

今回は、つい先日(2023年10月18日付)発表されました技能実習・特定技能についての専門家会議の最終報告について書いていこうと思います。

技能実習・特定技能制度に関しては、特に、技能実習制度については様々な問題が指摘されてきた中で、ついに日本としても制度の廃止も含めて、見直しを検討しようとして立ち上げられたのが今回の専門家会議です。

今回のブログでは、何が問題だったのか、そして今回の会議により、制度がどのように変わるのか、といったことをわかりやすく書いていきたいと思います。

なお、今回書いていく内容は、あくまでも上記の「最終報告」を基にしたものです。決定した内容ではありません。従って、現時点での最新の情報(状況)として読んでいただければ幸いです。

実際、転籍に関する新制度の内容については、既に、関係各所から批判の意見も出ており、まだまだ変わる可能性があります。

 

【現行の技能実習制度の問題点】

①目的の形骸化

技能実習制度の目的は「国際貢献」です。つまり、発展途上国・地域の人材に日本に来てもらって、先進国である(今や「あった」が正しい表現かもしれません)日本の技術を働きながら学んでもらいます。そそして、それを母国・地域に持ち帰ってもらって、母国・地域の発展に役立ててもらおうというものです。しかし、実際には、そういった外国人を受け入れる企業等(以下、実習実施者といいます)が技能実習名目で、外国人の方(以下、技能実習生)を「不足する労働力を確保するための労働力」として働かせ、技能実習そっちのけで働かせているというのが現状となってしまっています。

つまり、国際貢献という目的は形骸化し、実際は技能実習生が、不足する労働力の確保として単なる低賃金労働者として働かされているわけです。

 

②転籍不可と技能実習生の失踪

技能実習制度では、原則、転籍(転職)が認められていません。したがって、技能実習生は、一度技能実習生として来日すれば、一つの実習実施者で働かなければなりません。

この「転職不可」という縛りが、実習実施者側の技能実習生に対する人権侵害行為等を助長してしまいました。つまり、実習実施者側としては「技能実習生はここ以外では働けないんだから、​多少厳しくしても問題ないだろう。」という気持ちが生まれ、結果として、技能実習生に対して、暴行(言葉による暴力含む)、強迫(言葉や日本の法律等がわからないことを利用した強迫等)、自由の制限(パスポートの取り上げ等)といった人権侵害行為が蔓延ることになってしまいました。

その結果、それに耐えられず失踪する技能実習生が多発し、それが数多くの不法滞在者を生み、最終的に外国人による犯罪が増えてしまう一因となってしまうのです。

そもそも、「なぜ転職禁止にしたの?」という疑問が湧く方のいらっしゃると思うので、その点を説明します。

技能実習生を1人雇入れるために、実習実施者は多額の経費をかけています。採用のための費用(外国人の採用をあっせんする監理団体への費用、外国の送出機関への費用等)、採用後の費用(技能実習の監理に必要な費用等、技能実習終了後又は中止後の帰国旅費等)など、とにかくお金をかけています。

当然ながら、実習実施者からすればそれだけお金をかけて採用したのに、すぐに転職されてしまっては費用の無駄になってしまいます。この点も考慮して、転職は不可という制度となったわけです。

ちなみに、実習実施者が実習実施者として相応しくないと認められる場合(欠格事由に該当した場合等)に限って転職は認められています。つまり、

この「転職不可」が「現代の奴隷制」として、世界各国から批判されている​一つの原因です。

 

【新制度の概要】

新制度に関する最終報告書では、上記の事項も踏まえて、下記のような取扱いが報告されています。

①技能実習制度の廃止

技能実習制度は廃止する。しかし、それを生かして「新たな制度」を設けることになります。

 

②目的の変更

「新たな制度」の目的は「人材の育成と労働力の確保」とされました。つまり、形骸化していた「国際貢献」という目的を取っ払い、正面から「労働力確保」を目的とする制度に生まれ変わるのです。

 

③特定技能の前段階としての「新たな制度」

技能実習は、実は、特定技能とは別の制度です。つまり、技能実習は特定技能の前段階として開始された制度ではなく、あくまでも特定技能とは別のものとして存在していました。なぜなら、技能実習は前述のとおり「国際貢献」、すなわち、日本で修得等した技能等を本国に持ち帰って生かすことが目的なので、不足人材確保を目的とする特定技能と一体であるはずはありません。(実情は、技能実習(2号)終了後そのまま帰国せずに特定技能1号へ移行することが認められているため、一体的な制度と勘違いされても仕方がありませんが。)

しかし、今回の「新たな制度」は、明確に「特定技能へのステップアップ」を目的としていると謳われており、ここにも「人材確保」という目的が表れています。

イメージとしては、

新たな制度3年→一定の条件(N4、技能検定等合格)→特定技能1号(最大5年)→特定技能2号(在留上限なし)

といった感じです。

なお、技能実習制度では、特に職種・作業については定められていなかった(1号→2号移行時、2号→3号移行時は除く)ため、数多くの職種・作業について技能実習が実施できましたが、新たな制度では、特定技能の前段階となるため、その職種・作業についても、特定技能の12分野(特定産業分野)のみ受け入れることとなり、それ以外の産業分野での外国人の受入はできないことになります。

 

④費用負担について

上記の「技能実習制度の問題点」でも述べたとおり、この費用負担については特に、技能実習生を受け入れる実習実施者については最大の関心事項です。

今回の最終報告では、旧実習実施者(転職されてしまう企業等)のみならず、新実習実施者(転職先の企業等)にも在籍期間等に応じて、当該技能実習生を受け入れるに当たって必要となった経費を不平等にならない程度に負担させましょう、という方向になっています。

具体的にどのようになるのかが注目されます。

なお、繰り返しですが、この点は、最終報告発表から5日程度経過した時点で既に多数の批判意見が出ているようで、取り扱いが変わる可能性がある部分です。

 

⑤転籍(転職)の可否

転職については、上述のやむを得ない事由の範囲を拡大し、さらに、一定の条件を満たせば技能実習生の意思での転職を認める方向になりました。

条件は、最初に雇われた実習実施者で1年以上勤務+N5合格等となるようです。

まあ、無条件での転職は認めない、ということですね。

 

⑥その他の事項

・以前より、日本語能力不足が囁かれていましたが、今回、その点も変更があります。特に、特定技能2号に関しては、現行制度では技能水準と実務経験が求められるところ、日本語能力は在留資格の許可要件として定められていませんでした。しかし、新たな制度では、特定技能2号移行時に「N3相当以上」の日本語能力が求められます。

・新制度では、3年間で特定技能1号へ移行できる能力を備えることを目的としますが、その3年でその目的が達成できなかった場合に備えて、1年に限り再受験のための在留継続が認められる見通しです。

・その他、監理団体(実習実施者の監督・監理をする非営利法人)の許可要件及び登録支援機関​(特定技能において支援計画の実施を行う団体)の登録要件等の厳格化、国や自治体の関係強化なども今回の最終報告では触れられています。

 

以上、技能実習に変わる新たな制度についての最終報告書の概要を書かせていただきました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。